喫茶店「コーヒー シグマ」(学芸大学・武蔵小山)は銅製のコップで飲むアイスコーヒーがとてもおいしくて、和洋折衷ピラフも絶品でした~好きな店を導く計算、膨らむ”シグマ”のイメージ

学芸大学駅から徒歩15分弱。武蔵小山駅から徒歩15分。円融寺通り沿いにある喫茶店「コーヒー シグマ」。前から気になっていて、KEY COFFEEの看板もいいし、なんだか最近、気分が喫茶店モードだし、妙な時間だったのですが行ってみました。

あら? カウンターに二人、テーブル席に一人と三人組。こじんまりとした店内にお客さんがいっぱい。「ミヤネ屋」やってるような時間だよ?w 一人、二人、ご年配がカウンターに座ってる、そんな風景を想像していたのですが、ちょいと様子が違いました。

テーブル席に促され着席。メニューが遠い壁に貼ってありました。なんとなく一番安いコーヒーが400円となっているように見えます。ま、なんでもいいや。

「コーヒーお願いします」

「ホットにしますか? アイスにしますか?」

「アイスでお願いします」

ん? いや。待てよ。

「すみません、やっぱりBセットにできますか?」

「ええ。ただ、もうピラフしかなくて」

「じゃあピラフでお願いします」

頭で考えるより先に口がそう動きました。そして、注文したあとでよく考えてみます。

一番安いコーヒーが400円。100円プラスでトースト・玉子がつく。そこからさらに250円を足すとカレーorピラフorミートスパゲティがつく。これって……Bセットがお得過ぎじゃね?

「トーストはお食べになりますか?」

「はい」

この質問はなんだろう。AでもBでもない、トースト抜きの650円てのがあるのか??

ほどなくして「チン」というトーストが焼き上がった合図。カウンターに座っていた常連のお姉さんが、スタッフのごとく動いていて、トーストを渡してくれました。

「お待たせしました」

なるほど、こういうことねw 喫茶店でよくある厚切りトースト。Bセットでこれが出てきたら、食べきれない人もいるかもなぁ。だから「トーストは?」と聞いてくれたんだろうな。よく見ると団体さんの女性はトーストを半分残してるw

フライパンでピラフを炒めている音を聞きながら、トーストをひと口。ごくごく普通のトーストです。表面がサクッとしていて中はふっくら。普通ではあるのですが、この厚さで食べるのが久しぶりのせいか、なんだかとても懐かしく、そしておいしく感じました。

トーストをちょうど半分食べたところで、ピラフがやって来ました。

「おまちどうさまでした」

おおう。青のり。磯の香りが漂っています。こういうピラフなのか。しかも高菜っぽいものも混じっているぞ。和風ピラフだ。

ひと口パクッ。おや? 見た目は思いっきり和風なのに、味わいはそこまで和じゃない。どうやって作っているのか不明ですが、おそらく、スープのようなものでご飯を炊いておき、注文が入るごとにフライパンで炒めるというか温めているんだと思います。具は炊く段階で入れてるのかな。

バターのようなもので炒めているせいか、使っているスープのせいか、見た目より和ではなく、不思議なことに食べると青のりの磯の感じも少なくなります。いずれにせよ、なんだか妙においしいです。ご飯の具合もベチャっとなっているわけでもなくちょうどいい。

「ピラフおいしいです」

「ほんと? ありがとう」

「カレーやパスタがないってのは、切れちゃったということなんですか?」

「そう。あまり多く作っても、残ったらイヤでしょ」

この言いっぷりからすると、カレーもミートソースも単にできあいを温めてるってわけじゃなさそう。そしてこのピラフの味付け。高菜が入ってるんですが、まったくしょっぱくありません。塩味(えんみ)の角はなく、和でも洋でもなく、まろやか。料理上手だ。カレーやピラフは日によって種類が違うのかもなぁ。

アイスコーヒーがやってきました。銅のカップです。見た目がまずいい。そして、持ち上げると重みを感じます。この重厚感もいい。カップに直接口をつけるとひやりとします。この冷え方もいい。1.5リットル飲みたい。

団体さん、お父さん、お姉さんが順に帰って行き、客は私と背後の男性だけとなりました。この男性は50歳くらいかな。ちなみにお店のお姉さんは60代半ばくらい? 人の年齢ってほんとわからないw 3人でとにかくまあいろいろ話しました。

「こちらはどれくらいになるんですか?」

「35年くらい。このあたりは人がいないから商売はぜんぜん。大きな会社がみんななくなっちゃったでしょう」

「ああ、会社の存在って大きいんですね」

「そうよ。前は隣のおそば屋さん(信濃屋、松月庵)にお昼食べに行って、そのあとウチに来てって感じだったのに」

「バブルがはじけて、みんなどっか行ったね」

「ここだって上が家だからかろうじてできてるけど、家賃払ってはできないわよ。昔は『3日で家賃を稼げ』って言われてたのよ。だけど、今は10日ほどかかるってね」

「○○(学大方面の某店)は?」

「あそこは家賃ね。あれだけじゃやってけないから、いろいろやってるのよ」

「そうなんだ。そういえば昔、商店街(学芸大学駅東口商店街)にコーヒー屋があってさぁ、もう30年前のことなんだけど、そこのコーヒーが衝撃的で。なんだかこだわって出しててね、『コーヒーなんてどれも同じだろ』って言ったら、マスター怒っちゃってw でも、実際飲んでみたら衝撃的だったなぁ」

「おいしいってこと?」

「うん。あの味は忘れられないなぁ。あと最近、すぐそこに新しいのできたじゃん。なんだっけ、ほら……」

「○○ですね」

「そうそう。試しにテイクアウトして飲んでみたんだけど、これがまずいんだよ。しょーがないから、それ持ったままここに来ちゃったw」

「はははw」

「コーヒーっていっても、いろいろあるのよぉ。その人の好みもあるじゃない」

「まあ、好みではあるんだけどさ、どうも俺にはわかんないなぁ」

「あと、パソコン持って行って、いろいろやったりしてるんでしょ?」

「そうそう。けど、やっぱりここのコーヒーが一番おいしいよ」

面白いなぁ。そうなんだよなぁ。

そりゃ、「あそこのコーヒーは格別」と思って行く人もいるでしょう。けど、きっとそれだけじゃない。雰囲気がいい。スタッフの感じがいい。Wi-Fiや電源があって使い勝手がいい。禁煙/喫煙だからいい。いろいろな要素を足し算した結果、その店を選ぶわけです。

この先輩だってそう。「○○のコーヒーはまずい」って言ってたけど、たぶん味だけの問題じゃないでしょう。何十年と通い慣れた、楽しいお姉さんのいるこの空間が好きで、このお姉さんが入れてくれるコーヒーが、たとえそれがなんであれおいしいんです。

味、人、雰囲気、値段、慣れ……そうしたもろもろの要素を加算して得られた結果がよければ好きな店。なるほど。シグマ=Σだ。ここに限らず、どこもそう。「いいな」そう思えるポイントの総和が大きければ大きいほど、その店に通いたくなります。僕たちは意識的/無意識的にΣを使ってる。

キンと冷えた銅のカップで飲むアイスコーヒー、和とも洋とも言えない絶妙なピラフ、話し好きな楽しいお姉さん、カウンターとテーブル席が一緒になって話せるアットホームな雰囲気、そのすべてをΣ(シグマ)にぶち込んだら、私の解は「好き」でした。

コーヒー シグマ
東京都目黒区目黒本町2-3-2

野暮ったい蛇足:Σとはw

たとえば。

1+2+3+4+5+6+7+8+9+10

この式をΣを使って表すと、

すっごく簡単に(乱暴に)言ってしまえば、繰り返して足す計算(≒数列の和)=Σ(シグマ)です。

ちなみに、記号「∑」はギリシャ文字のシグマの大文字。Sum(summation/和)を意味するラテン語・Summaの頭文字Sの翻字です。

参考:wikipedia > 総和

雑記:シグマの時代

シグマと聞いて真っ先に思い出すのはロボットアニメ「宇宙大帝ゴッドシグマ」。1980年から1981年にかけて放送されていました。

自動車やボートのエンジンを買い厚・販売する、トヨタから派生したシグマ・オートモーティブが設立されたのは1972年。Σ団が悪役の「電人ザボーガー」が放送されていたのは1974年~1975年。三菱自動車の「ギャラン Σ」が発売されたのは1976年。日本の国家プロジェクト「Σプロジェクト」が始まったのは1985年(~1995年)。「情熱大陸」のナレーションでおなじみの窪田等さんらが声優事務所「シグマ・セブン」を設立したのは1988年。

私の勝手なイメージなのですが、1970年代、80年代、”シグマ”ってのはなんだかすごいものを表す言葉だったような気がします。シグマという言葉の響きに「なんかすげぇ」って感じていたようなw

正確にはわかりませんが、お姉さんの言っていたことからすると、喫茶店「コーヒー シグマ」がオープンしたのは1980年ごろ。なぜシグマと名付けたのかはわかりませんが、オープン当時の時代の雰囲気はこんな感じでした。

1980年:竹の子族、ルービックキューブ、松田聖子「青い珊瑚礁」
1981年:ピンクレディー解散、ポートピア’81、千代の富士が横綱、寺尾聰「ルビーの指輪」
1982年:ホテルニュージャパン火災、日本航空350便墜落事故、「笑っていいとも!」「タモリ倶楽部」放送開始、あみん「待つわ」
1983年:東京ディズニーランド開園、ファミコン発売、ロッキード事件、戸塚ヨットスクール事件

こういう時代に「シグマ」。ちょっとオシャレで、ちょっと贅沢で、大人がゆっくりくつろげる上質な空間。当時の人たちが「シグマ」という店名で抱くイメージはそんな感じだったんじゃないかなぁ。

そういえば。

店頭のKEY COFFEEの看板で思い出しました。漫画「タッチ」に登場する浅倉南の父親が経営する喫茶店「南風」。「南風」の前にもKEY COFFEEの看板が出ていました。漫画「タッチ」の連載が始まったのは1981年。

俺と同世代もしくは年上の方々、なんかさ、懐かしいねw

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後藤ひろし(ひろぽん)

雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。学芸大学で巡った飲食店の数は約350軒。

https://twitter.com/gokky_510

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