「麺処 びぎ屋」(学芸大学)のラーメンが辿りつくゼロの焦点。魚介が色濃く出た芳醇なスープと力強い麺はすべてが見事に溶け合い、そして消えて行く。

学芸大学駅から徒歩4分。東口商店街を抜けようかという頃合いに「麺処 びぎ屋」というラーメン屋があります。星はつかないけど5000円以下で食事ができるおすすめの店=ビブグルマンとして、ミシュランガイドにも掲載されている人気・有名店です。

どうでもいい余談をひとつ。学芸大学に越して来て約4年になります。それ以前は恵比寿というか中目黒というかそのあたりに住んでいたのですが、学芸大学にはまったく縁がなく、来たことは一度しかありませんでした。その一度は「びぎ屋」を食べに。つまり、私にとっての学大グルメの第一号が「びぎ屋」だったわけです。ま、それはさて置き。

最近は「ゆず香る 白醤油らーめん」も人気です。食券機で普通に食券を買い、100円を渡しつつ「ゆず」と伝えて下さい(100円を渡さずに「白」と伝えると白醤油らーめんにしてもらえます)。ただ、もし初めて行くなら、オーソドックスな醤油らーめんがおすすめです。わかりやすく「びぎ屋」のすごさが感じられると思います。

ダシの香る店内はカウンター席とテーブル席。テーブル席は相席です。

幾度となく食べていますが、やっぱり醤油らーめん。店主は「せたが屋」出身。その影響・経験があるためでしょうか、「びぎ屋」のラーメンも魚介が色濃く出ています。けど、鶏もトンコツも使われているので、味わいに奥行きがあります。奥行き?

奥行きといってもいろいろあると思うんです。スープを口に入れた瞬間からブワーッといろいろな風味が広がっていくということもあるでしょう。けど、「びぎ屋」のスープはちょっと違う。

スープを口にした瞬間、フワッと風味が広がるのですが、すぐさま一点にスーッと集約されていき、口内から鼻孔へ香りが抜けていったかと思えば、フッとそれが消失する。香り高く力強い麺もスープに激しくぶつかりながら、スープと同じ流れに身を寄せ吸い込まれていきます。そして最後はスープと一緒にやはり姿を消す。

余韻がないわけじゃありません。余韻は強烈にあります。だけど、そこには魚も鶏も、スープも麺もない。すべてが一緒くたになった、境界のない世界が残されるのみ。

つけ麺も同様です。わずかな酸味、ピリッとする唐辛子の辛み、キリッと締まる胡椒の刺激、爽やかなネギの香り、芳醇な魚介の風味、ブリッとした力強い麺。一瞬、口内で膨らんだ風味は、吸い込まれていくように体内で一体化していきます。

たとえるなら、果てしなく真っ直ぐ続くアメリカ・アリゾナ州あたりの道路。そこに見えるのは道路と砂漠と青い空。これらがずっとずっと先、一点で交わります。もはやそこでは道路も砂漠も空も識別不能。すべてが溶け合いひとつになる。いや、”ひとつ”という形すら保っていない。vanishing point/消失点。ゼロ。

「びぎ屋」の店主・長良貴俊さんは「せたが屋」の前島司さんに師事し、「せたが屋 本店」店長を任され、「せたが屋 ニューヨーク店」「ラーメンゼロ」の立ち上げ時には店長となり、その後、独立。2009年7月、「麺処 びぎ屋」をオープンさせました(「びぎ」は店主の昔のあだ名なんだとか)。

「ラーメンゼロ」は塩や醤油などの調味料を使わないからゼロ。ダシのうまみだけで食べさせるラーメンでした。その試みが果たしてどうだったのか、どうなったのかはよくわかりません。ただ、私は「びぎ屋」で”ゼロ”を感じます。調味料は使ってる。ふんだんにダシが使われている。風味豊かで濃厚で奥行きがあるんだけどゼロ。すべてが見事に溶け合うと、そこにあるのはゼロ。ゼロという余韻だけが残ります。

できうることなら、自分のこの肉体すらも「びぎ屋」のラーメンと一体化してゼロになりたい。自分という存在すらもまどろっこしく感じさせる「びぎ屋」のラーメン。こんなことを書いてるとまた食べたくなるんだよなぁ。

ゼロがいい ゼロになろう もう一回w

麺処 びぎ屋
東京都目黒区鷹番2-4-9
03-5722-1669
食べログ

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執筆者:後藤 ひろし(ひろぽん)
雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。学芸大学で巡った飲食店の数は約350軒。
https://twitter.com/gokky_510

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