世田谷区野沢の居酒屋「ふっこ」で感じた地域社会のよさと人情

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ひと口に居酒屋と言っても、さまざまなタイプがあります。誰でも気軽に入れる比較的大箱なチェーン系居酒屋、遠くからでも訪れる価値のある、安くてうまい小・中規模の個人経営の居酒屋(たとえば「ばん」のような)、そして、地域に根付いた近隣住民しか来ないような小規模の個人経営の居酒屋。

世田谷区野沢の野沢稲荷神社前にある「ふっこ」は、最後のタイプです。住宅街のど真ん中にあり、近くに住んでいる方が寄り合い所のようにして利用しています。こういう居酒屋のよさは、店と客、客と客の距離が近く、密なコミュニケーションが取れたり、店主がお母さん、あるいはお父さんのようで心が温まったり、家庭的なおいしい料理を頂けるといった点にあります。そしてもうひとつ、その街の歴史を知ることができるというのも、こうしたお店の魅力です。

「野沢稲荷神社ができたのは元禄8年。実はかなり古いのよ。でも、別に何があるってわけでもなくて、20年前、娘が『祭りをやろう』って言いだしたの。お囃子の会も彼女が作ってね。神社にもかけあったんだけど、最初はぜんぜん乗り気じゃなくて。総代ともやり合って、ようやく祭りができるようになったの。それから10年かな。『祭りをやってよかった』と思ってもらえるようになったのは。大変だったのに、娘もがんばったわねぇ。まあでも、父親方は100年、ここに住んでいて、そういう歴史があるからこそ、認めてもらえたんだと思う。外からポッと来た人がかけあっても、果たしてどうだったか。そういう意味では、おじいちゃんとかにも感謝よねぇ」

とは、居酒屋「ふっこ」のお母さん。野沢稲荷神社の祭りには毎年行っています。その祭りにこんな歴史があったとは。

娘さんが作ったという江戸囃子の会の名前は「南風連」。夏には野沢稲荷神社のみならず、あちこちの祭りに呼ばれて出かけるそうです。まだ5月ですが、みなさんもうそわそわしてらっしゃいますw

さて、「ふっこ」には3回ほど来ていて、今回は久々。おそらくは覚えられてないだろうな。そんな人間に対しても、上述の通り、いろいろなお話を聞かせてくれたり、写真や動画を見せてくれたり。優しい人たちだ。

まず出てきたのはお通しのうど。

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緑のうどはあまりお目にかかりません。最初、「ん? これなんだったっけかな」なんて顔をして食べていたら、お母さんがこう言います。

「うどお嫌いでした?」

おっと。余計な気を遣わせてしまった。いえいえ、大好きですよ。

「よかった。私は長野出身で、これも長野から送ってもらったの」

ほんのり苦味のある爽やかなうどに、甘いゴマ。茹で加減もちょうどいいし、こりゃいいつまみです。

ホワイトボードのメニューには鹿肉の煮込みなんてものもあります。これも長野から送られたもののようです。

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鹿のいいクセはあるものの、臭みはありません。ふくよかな鹿の味わい、鹿の出汁に浸った大根の甘み、最高です。うまーい。

しゃべり出したら止まらない。そして、祭りのこととなると熱くなる。「ふっこ」のお母さんの話はまだまだ続きます。

「神輿かつがない? 半纏はウチにあるから貸すわよ」

ははは。まだこの地に来て浅い新参者が、神聖な神輿を担ぐなんて恐れ多いこと。やんわりと遠慮がちな空気を漂わせました。

「じゃあ、焼鳥焼くの手伝ってよ」

うん、それなら十分、お役に立てそうだ。それにしても、あちらにしてみれば、ほぼ一見のような若輩に、よくそんなことをw 人がいいですね。まあ、社交辞令的な会話だったかもしれませんが、本当にそうなったらそうなったで楽しそうだw

こういう居酒屋に来ると、まだまだ地域社会は残っているなぁと感じます。正直、ここに何年いるかわかりませんし、深く関わることはできないですが、ゆるく、ライトに地域社会なるものにコミットするのも悪くないな。日本酒をチビリチビリしながら、そんなことをボーッと考えていました。

わざわざ遠くから出向くような居酒屋ではありません。近所にお住まいで、まだ「ふっこ」に行ったことのない方は、ぜひ一度、のぞいてみて下さい。また、他地域にお住まいの方は、「ふっこ」のような居酒屋を近くで見つけてみて下さい。こういう店もなかなかいいものですよ。

そうだそうだ。祭りに熱中しているお母さんにあれこれ聞くのも野暮ったいので聞けなかったけど、今度行ったら、このお店の歴史とか名前の由来も聞かなきゃな。

ふっこ
東京都世田谷区野沢2-3-4

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後藤ひろし(ひろぽん)

雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。学芸大学で巡った飲食店の数は約350軒。

https://twitter.com/gokky_510