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レストラン 福よし(学芸大学)でじっくりステーキを堪能してみた~店と客が紡ぎ出す穏やかな電燈の照明はいつまでも

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学芸大学駅の東口を出てすぐ。八百屋「ボラボラ」の角を左折して小道を行くと、昭和をそのまま連れて来たかのような佇まいで「レストラン 福よし」が通行人を出迎えます。以前はすき焼き店、精肉店もあったようですが、現在は真ん中のレストランだけが営業しています。

※2020年6月13日追記:随分前、2018年ごろからでしょうか、店が営業しているのを見かけたことがありません。おそらく閉店しているものと思われます。追記以上

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とても広い店内はまさに昭和のレストランといった趣。BGMはクラシック。ここだけが外とは時の流れが違うかのようです。

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厨房にはお父さんとお母さん。お二人ともコック帽をかぶってらっしゃいます。息子さんと思しき男性もお手伝いされています。客は私一人でした。

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しゃぶしゃぶもすき焼きもおいしそう。ハンバーグもいいし、カツカレーも食べてみたい。メニューが束になってこちらを誘惑してきます。あまりにも激しい攻勢に耐えきれず、絞りだすような声で「サービスステーキセットお願いします」と呟くことしかできません。

注文したものの、他のメニューがやはり気になります。何度も何度もメニューを読み返します。ビールとつまみをまずは頼んでもよかったかな。こういうお店のエビフライっておいしいんだよなぁ。700円のもやしいためってどういうのだろう。「スペシャル」ではなく「スペシアル」と書いているのは、あえて、だろうな。フレンチでもやっていたことがあるのかな。たった一枚のメニューですが、これだけでいくらでも夢想にふけられます。

厨房からはジューっという音が聞こえてきます。息子さんはサラダやスープ、ライスを準備しています。奥でステーキを焼いているであろうお父さんが時折、表に顔を出し、お母さんたちの様子をうかがいます。何十年と繰り返されてきた一連の作業。客もこの姿を何十年と眺めてきました。私もその内の一人になれたんだ。そう思うと感慨深いです。

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ジューっと音をたてている牛ロース サービスステーキセットが運ばれてきました。ステーキというには薄い肉ですが、肉のうまみがギュっと詰まっています。玉ねぎと醤油のソースが肉の甘みを引き立てます。キリっと冷えたレタスはシャクッ。単なるレタスなのになんておいしいんでしょう。大事に、丁寧に、ひと噛みひと噛みを堪能しました。

この味は一朝一夕にできたものじゃありません。何十年という月日が料理を熟成させ、おいしくさせています。ステーキセットを食べ終え、もう一度、店内とメニューを見渡します。相変わらず時間はゆっくりと流れていました。

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店を出ます。なぜか『春と修羅』(宮沢賢治)の序文を思い出しました。

わたくしといふ現象は
假定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)

いきなり行ってチャチャっと済ませられる立食のステーキもいいですが、ゆったりとした穏やかな時間の中でじっくりと味わうステーキもいいもんですよ。

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