昭和28年創業「中華料理 二葉」(学芸大学)のアンニュイな雰囲気と12月の赤い雨~『北の国から』と『初恋』(村下孝蔵)を思い出させる街場の中華料理屋/「きたなトラン」で見えた「二葉」の優しさと美しさ

学芸大学駅のすぐ目の前にある「中華料理 二葉」。タンメンで有名な街場の中華屋です。行ったことはなくとも、学大に住んでいれば、誰もが一度は目にしたことがあるはずです。

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昭和28年(1953年)創業。今年で62年目の老舗です。赤いテントに赤い暖簾、ショーウィンドウにサンプルがあり、ウィンドウを支える土台はタイル張り。看板の市内局番は3ケタのまま。うっそうと茂る樹木は恥じらいや謙虚さを表しているようにも感じます。

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店内はとても広いです。テーブル、椅子、座布団はまさに食堂のしつらえ。テレビには62年ぶりという札幌の大雪が映し出されています。

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前日の夜からそれほど食べていません。朝から夕方までまだ何も口にしていませんでした。今日はたっぷり食べたいな。というわけで、半チャンラーメンを注文しました。

厨房ではお父さんとお母さんが調理されています。表で接客を担当しているのは息子さん? 中華鍋を振る音が聞こえてきます。お父さんは麺を茹でていそうな感じ。ということは、お母さんが中華鍋を振ってるのか。

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古いお店だというのに、テーブルに配された調味料類がとてもキレイです。箸入れもトレイもピカピカ。お手入れが行き届いています。

ひとつだけ、「二葉」に来る度に私を動揺させることがあります。ピーク時間を過ぎた頃の「二葉」の雰囲気が、ドラマ『北の国から』の例の中華料理屋に似てるw 田中邦衛演じる黒板五郎が店員に対して「子供がまだ食ってる途中でしょうが!」と怒る、涙なくしては観られない名場面。なーんか似てるんだよなぁ。だから、「二葉」に来ると毎回、しんみりとした気持ちになってしまうのです。私の勝手なんですがw

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それはさて置き、半チャンラーメンがやってきました。

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パッと見はオーソドックスでシンプル。ですが、ラーメンの丼が大きく感じます。実物には迫力があります。

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ついつい”昔ながらの”という修飾語を使いたくなるのですが、そんな単純な味わいではありません。しっかりと鶏のダシが出ています。醤油の嫌な角は一切ありません。濃厚でうまみたっぷりのスープ。海苔から染み出る磯の香りもスープに奥行きを出しています。

麺は細麺ストレート。今どきの感覚からすると、茹で時間が少々長めなんですが、この柔らかさもまた一興。

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チャーハンのご飯は少し堅めに炊きあげられています。私にとってはパーフェクトな炊き方。炒めるのだったら、これくらいが一番好きです。いや、中華系のおかずに白米を合わせるなら、それでもこの堅さがいいな。

単なる醤油ではなく、ラーメンの返しかチャーシューの煮汁を使っているのでしょう。ご飯全体がうまみと油でキッチリとコーティングされています。塩味(えんみ)が強いわけではないのですが、それなりにパンチがある。王道ではありますが絶妙です。

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学芸大学駅周辺には、いわゆる”街場の中華屋”と呼べる店は2軒。「東軒」と「二葉」です。ただ、両者は対極にあると言っても過言ではありません。

たとえるなら、「東軒」は激しいロックのライブ。勢いがあってパンチがあって、音がズンズンと体に響いてきます。かと言って雑ではありません。キラリと光る技を感じさせてくれます。マスターとアキラさんのパワーがそのまま乗り移ったかのような料理は、まさに男の料理。

一方、「二葉」は穏やかです。安心して聴いていられる昭和歌謡のコンサート。誰が聴いても懐かしくて心地いい。いつまでも心に残るメロディと歌詞。だけど、単にレトロというだけじゃ片付けられない、甘くて繊細な、それでいて芯のある歌声。そう、故・村下孝蔵の『初恋』。そんなイメージ。奇しくも村下孝蔵が生まれたのも1953年。

「二葉」の料理も懐かしさの中にもパンチとメリハリがあり、安易にシンプルとは評すことのできない深さがありました。

会計を済ませ、若いお兄さんに「ごちそうさまでした」。少し声を張って、厨房に向かって「ごちそうさまでしたー」。厨房は音がうるさいですからね。私の声は届いていないようでした。

五月雨は緑色

外は12月の冷たい雨。ライトで光る細かい雨粒が赤いテントに跳ね返ります。

穏やかで、おいしくて、どこかアンニュイで。胸の奥が少しチクっとするんだけど、それは決して嫌なものじゃなく、なぜか気持ちいい。「中華料理 二葉」はそんなお店です。

中華料理 二葉
東京都目黒区鷹番3-3-17
03-3712-4152
食べログ

「きたなトラン」で見える「二葉」の優しさと美しさ(追記)

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2016年7月21日、「とんねるずのみなさんのおかげでした」の1コーナー「きたなトラン」に「二葉」が登場しました。

外見は汚いけどおいしいお店を紹介するというのが「きたなトラン」という企画です。確かにそういうお店ってありますよね。企画自体はとても面白いものです。

ただ、この回の「きたなトラン」はイレギュラーです。ゲストは松嶋菜々子と松田龍平。ドラマ「営業部長 吉良奈津子」の番宣絡みです。さらに、「きたなトラン」はある意味で”ニセ企画”。「きたなトラン」と思わせておいて実は、ドラマスタッフへの差し入れとして、高額な牛肉を買わせる「松田龍平、牛を買う。」という企画が本筋でした。つまり、松田龍平をドッキリにかけるということです。

番組制作側としては、この回の「きたなトラン」はどうでもいいわけです。ここに力は注ぎたくない。だって、あくまでも松田龍平を人形町の老舗牛肉店「日山本店」へ連れていくというのが主旨なのですから。そこで、これは想像ですが、スタッフが懇意にしている取材しやすい店=「二葉」に白羽の矢が立ちます。

「こういう事情でさ、今度、『二葉』でロケさせてもらえないかな。いや、別に汚いとは思ってないよ。一応、番組的に『汚い』とは言わせてもらうことにはなるんだけど、サクッとやんなくちゃいけなくて……。宣伝にもなるし、お願いします!」

いつもよく来てくれているお客さんでもあるので、「二葉」は快諾します(おそらく)。

こうして「二葉」が「きたなトラン」に登場するわけですが、テレビを実際にご覧になった方はよくわかると思います。一応、「きたなトラン」という”体”があるため、ナレーションベースではこじつけのごとく「二葉」の”汚さ”を紹介していました。けど、その内容は汚いというよりも年季が入っているというものでした。

また、これは番組側の配慮なのでしょう、出演者に汚さを無理矢理に指摘させるようなことはしませんでした。確かに石橋貴明さんは、少しだけ「天井にほこりが」みたいなことを言っていましたが、けど、これは松田龍平に不信感を抱かさないための、ある種の演出(台本)でしょう。出演者たちは「むしろ汚くはない」みたいなニュアンスのことを言っていました。

まとめるとこういうことです。

松田龍平をダマすため、番組は「二葉」を「きたなトラン」として利用した。けど、「二葉」は汚いわけじゃない。「きたなトラン」としての企画を成立させつつ、だけど「二葉」を無用に貶めることはしたくないという制作側の意図があり、ギリギリのラインで「二葉」を「きたなトラン」に仕立て上げなくてはいけなくて、あのような番組ができあがった、と。

※松田龍平が本当に何も知らなかったのかどうか、というのはまた別の問題

上の写真をいま一度ご覧下さい。各種調味料が乗せられたトレイは汚れがち。だけど「二葉」のトレイはピッカピカです。箸立てもピッカピカ。私はあえてこれを撮影しました。なぜなら「二葉」はきれいだから。この美しさに感銘を受けたから。

確かに年季は入っています。けど、「二葉」は決して汚くありません。むしろキレイです。そして、誤解されかねないこのような企画に、おそらくは付き合いってのもあって協力してあげた「二葉」。汚い・きれい、うまい・まずい、そんなことよりも大切な「優しさ」がここに見て取れます。

テレビ番組を責めるつもりは毛頭ありません。テレビに登場した有名店に行ってみるというのも悪いことじゃない。ただ、世間のイメージではなく、自分が実際に目にしたもので判断してあげて下さいね。

(2017年6月8日追記)

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後藤ひろし(ひろぽん)

雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。学芸大学で巡ったお店の数は約350軒。

https://twitter.com/gokky_510

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