「天ぷら割烹 川さき」(学芸大学・武蔵小山)の天丼は最高においしくて、猫好きなご主人と奥様がとても素敵でした。こういう店が”いい店”なんです

行きたいと思っているお店が何軒もあります。どこから行くかは基本的に気分次第。ただ、誰かの後押しがあって行ってみるということもしばしばです。

「天ぷらの『川さき』、めっちゃいいですよ」

学芸大学のカラオケバー「楽生茶屋」でエメちゃんがそう言うので、さっそく行ってみました。

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学芸大学駅からは徒歩約10分。武蔵小山駅からは徒歩10分強。学芸大学駅からだと、都道420号線を目黒郵便局から武蔵小山方面へ向かいます。すると、程なく右手にガソリンスタンドが見えてきます。その角を右折したすぐ先に天ぷら屋「天ぷら割烹 川さき」があります。随分前から存在は知っていたのですが、ようやく。

ところが、その日は「予約で満席です」の札が出ていました。ありゃりゃ。まあ、仕方ない。数日後、再び行ってみました。おお、開いてる開いてる。

「こんにちは~」

「いらっしゃいませ~」

扉を開けると、ご主人と奥様はまだ準備作業をしてらっしゃいました。

「大丈夫ですか?」

「どうぞ~」

その店のベストポジションを一瞬で見極めるのが私の特技。私が口開け。最高のシートを確保します。

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カウンター8席ほど、小上がりになっているテーブル席が8席ほど。外観も内観もいい雰囲気。そして、とかく目につくのが猫グッズ。天丼(ご飯大盛り)をお願いして、いろいろお話をさせて頂きました。

「猫グッズがいっぱいですね。猫がお好きなんですか?」

「ええ、一匹飼ってまして。グッズはみんなお客さんが持って来てくれるんです」(ご主人)

「なるほどぉ。私も一匹飼ってます」

「そうですか。猫はかわいいですよね」(ご主人)

「そうですねー」

「何歳ですか?」(奥様)

「もう12歳くらいです」

「猫は20年生きるって言いますし、まだまだ元気ですよ」(ご主人)

「どんな猫ですか?」

「黒と白のキジです」(奥様)

「へぇ。ウチも黒と白です」

「黒と白はかわいいですよね」(奥様)

「かわいいですよねぇ」

「お手洗いにも猫グッズがいっぱいあるんですよ」(奥様)

「そうですか。じゃあ、あとで拝見します(笑)」

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話しながら、ご主人は天ぷらを準備します。ツユの入った鍋を火にかけ、冷蔵庫からタネを出し、大きなボールで衣液を溶きます。太い箸で横に切るように混ぜるご主人。なるほど。こうするとざっくり混ざるのか。

油に衣液を振り落とし、温度を見ます。頃合いを見計らい、タネをパッパッと油へ投げ入れました。

「あ」

思わず声が漏れそうになります。タネが油に入った瞬間、香ばしい油の香りがフワッと店内に広がったのです。

早朝。まっさらな新雪に足を踏み込む快感。あえてのたとえ。

口開けで、まだ誰も客がいない店内。ご主人と奥様を独占し、最初の油の立ち上がりを堪能できる。こんな幸せなことが他にあるでしょうか。

チリチリと音をたて、天ぷらが油の中で泳ぎます。ご主人は箸でチョッチョッと花を咲かせます。この動作はかわいらしさすら感じさせます。

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揚げ音が徐々に小さくなります。天ぷらを持ち上げ、サッとひと振り。油を切って、ペーパーの敷かれた天ぷらバットにタネを乗せます。

鍋ごとツユを持ってきて、ツユをピュウっとご飯にかけ、タネをツユにくぐらせ盛りつけます。ふふ。ご主人の動きをつぶさに見られるこの席。やっぱベスポジ。

「お待たせしました」

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おしんこ、切干大根、しじみの味噌汁、丼に蓋。いい景色。蓋を開けると、甘くて香ばしい香りが漂います。

海老2本、アナゴ、キス、ナス、まいたけ。魚介には厚めの衣、野菜は薄めの衣です。まずは海老をひと口。しっとり・ふわりとした衣、甘いツユ、プリっとした身。そこですかさずご飯をひと口。いや、ふた口。そしてため息。揚げ物と甘いツユと白米のコンビネーションは日本人の魂に沁み入ります。

一心不乱に天丼をかきこみます。すると、お客さんが二名入って来ました。二人は天ぷら定食を注文しました。ここでようやく我に返ります。

天ぷら定食、か。なんて私は運がいいんだ。だって、天ぷら定食用の天ぷらを揚げる光景も見られるのだから。食べるペースを少し落としました。

天丼を食べながら、ご主人が揚げる姿を見守ります。なるほど。やはり。天ぷらに花を咲かせません。気のせいか、天丼よりも揚げ時間が短いようにも感じました。サクッと揚がった天ぷらを奥様がテーブル席へと運びます。そして私も天丼を食べ終えました。

「天丼と天ぷらで揚げ方が違うんですね」

「天丼は少し厚めに衣をつけてます」

「油はなんですか?」

「ごま油と綿実油を半分ずつ使ってます。ごま油はごまがキツすぎないものを選んでます。キツいと味がすべてごま油になってしまうので」

「こちらはどれくらいになるんですか?」

「来年の3月で12年です」

「そうですか。長いですね」

「いえいえ」

ああ、そうだそうだ。

「せっかくなので、お手洗いをお借りしますね(笑)」

「はい、どうぞ(笑)」

トイレのタンクの上にも猫グッズがいっぱい。いいね。

※直接うかがった際は「今年が11年目」とおっしゃっていました。ただ、今ホームページで確認したところ「私達は16年前から、今の場所で、営業させていただいています」と書かれています。どちらが正しいのか、あるいはどちらも正しいのかは不明です

お勘定をすませ、席を立ち、いつもの通り、お二人の顔を見ながら会釈しつつ「ごちそうさまでした」と言って、店を出ます。扉を閉める際にも軽く会釈。

本当に素敵なご夫婦だったなぁ。ご主人はとても優しそうな柔和なお顔。奥様も優しそうできれい。猫の話になると、ほんと嬉しそうで。

もちろん天丼もおいしかった。あのタネ、あの量で1000円以下というのもすごい。最高です。でも、それさえも吹っ飛ぶくらい、お二人が素敵な方でした。私は心の底からこう言えます。

「川さき」は本当に素敵なお店です。こういう店が”いい店”なんだ、と。

天ぷら割烹 川さき
東京都目黒区目黒本町2-4-5 1F
03-3716-0035
公式サイト

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後藤ひろし(ひろぽん)

雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。学芸大学で巡ったお店の数は約350軒。

https://twitter.com/gokky_510

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