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蕎滋庵/きょうじあん(学芸大学)でそばの語りに耳をそばだてる~丁寧に作られたそば前と一茶庵流の謙虚な手打ちそば

追記:2016年10月2日、閉店しました。店主の体調不良が主な原因だそうです。

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学芸大学駅から徒歩3分。東口を出て、線路沿いに行き、笹崎ボクシングジムの角を曲がると、蕎滋庵(きょうじあん)というそば屋があります。

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扉を開けるとすぐ横に手打ち場。ちょっと変わったレイアウトですが、こね鉢の朱色が映えていてきれいです。

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落ちついた雰囲気の店内はカウンターと6人掛けのテーブル席。BGMは穏やかなジャズ。店主が何かをシュッシュッシュッとすっています。大根か、あるいは大和芋か。心地のいい音。

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ヱビスの中瓶を飲みつつ、付き出しの揚げそばを頂きます。ほう。見事にエッジが立っています。こりゃすごい。ポリポリとした食感もまた楽しい。

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メニューには焼き味噌があります。一茶庵系かな? 出し巻き玉子と蔵王鴨だんごの串焼きをお願いしました。

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まず出てきたのは鴨だんご。タレは甘め。鴨にはしっかりと塩系の下味がついていますが、肉自体は甘い。甘いと辛いが混じり合うとうまくなる不思議。香ばしいネギにも鴨のうまみが乗り移っています。鴨が葱を背負ってくるとは、昔の人はうまいこと言うもんだ。

添えられているのは柚子こしょう。柚子こしょう大好き。だけど、あまりつけすぎはいけません。なぜなら、柚子こしょうは何でもおいしくしてしまうから。余談ですが、柚子こしょうが合わないものはこの世にないと思っています。あらゆるものを柚子こしょうで食べてみました。チョコレートも生クリームのケーキも。ぜーんぶ合うw ま、それはともかく、柚子こしょうはつけずに、取り皿に取っておき、あとでつまみにしました。

さて、ご主人が出し巻き玉子を焼き始めました。チッチッと音がします。箸で気泡を潰す音。そして、かまぼこ板のようなもので、ジッと抑えつけます。弱火で丁寧に焼き上げられた出し巻き玉子がこちら。

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ダシの香りが漂う上等な玉子焼き。きれいだなぁ。舌触りはとてもまろやか。熱いうちに食べきります。

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せいろを注文すると、店主は釜に火をつけました。大きなボウルに氷を入れ、水を張ります。湯が沸いたところで、木箱からそばを取り上げ、計量器で重さを計り、タイマーをセット。さっと湯にそばを打ち入れます。

正確に計っていませんが、体感では1分ほどだったでしょうか。手打ちそばにしては長めに茹でています。茹であがったそばを氷水で締め、ざるに盛ります。

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素朴で飾り気のないそばですが、とても美しい。

そのまま何もつけずにひとすすり。最初に感じるのは角。口内でもそばのエッジが感じ取れます。プツっとしたコシは強くもなく弱くもなく。ほどよいそばの香りが鼻腔にフワリ。ほんの少し平べったいそばもあるのですが、食感の違いはむしろいいアクセントになっています。

なんて言うんだろう。そばが語りかけてくるようです。その口調は謙虚。

「どう? おいしいかな? 丁寧にご主人に打ってもらったんだけど、口に合う?」

そばの語りに耳をそばだてます。

シャレではありません。蕎麦の実は三角に尖っています。耳はそびえたたせます。どちらも角が立っている=稜="そば"。言葉の成り立ちが同じなんですね。

おっとっと。残りふた口分くらいになっちゃった。ツユも確かめなきゃな。ダシの甘みがしっかり出ている、とてもおいしいツユ。二八のそばによく合います。

そば湯が供されました。湯桶を開けてみます。かなりの白濁。そば粉を溶いてるのかな。トロみがあって、これまたとても美味。

お勘定をしてもらうと、付き出しで出てきた揚げそばを一袋頂けました。

「お住まいはこのあたりですか?」

奥様が声をかけてきました。

「はい、そうです」

「この前はよくお通りに?」

「そうですね。浅野屋まるだ。もちょくちょく行きます」

「そうですか。またぜひお寄り下さい」

「はい、おいしかったです。またぜひ」

いつもなら、このタイミングでいろいろ話を聞くところ。けど、この日は何も聞かず、そのまま店を出ました。別に何か理由があるわけではありません。優しそうなご夫婦ですから、聞けば何でも話してくれたでしょう。ただ、なんとなく。

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帰って、蕎滋庵の公式サイトを見ると、こんなことが書かれていました。

〆には、老舗一茶庵流の『出汁』と『手打ち蕎麦』をぜひともご賞味ください。

やっぱり。一茶庵系のどこかでやってらっ……あ。一茶庵・片倉英統氏のそば教室ご出身なのか。

夭(=しなやかに曲がる)と高で喬(きょう)。高くしなやかに伸びる草だから蕎(そば)。蕎が滋る(しげる)庵(いおり)で、そばの声に耳をそばだててみて下さい。あなたには何を語りかけてきますか?

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