「碑文谷ベーカリー(碑文谷製パン)」(学芸大学・武蔵小山)は昭和17年創業なのにカレーパンは新食感。タマゴパンもシンプルで最高でした/碑文谷ベーカリーを取り囲む品川用水、羅漢寺川。暗渠化された水系を巡ってみた

朝、自転車で走っていますと。

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おっとっと。やってるやってる。時間には余裕があるし買ってみよう。

学芸大学駅、武蔵小山駅から徒歩15分弱。都道420号線(補助26号線)沿いにある「碑文谷ベーカリー(碑文谷製パン)」。レトロ感満載のパン屋さんです。行ってみたいと思いつつなかなか行けなくて、今回、ようやくいいタイミング。

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「おはようございます」

扉を開けた瞬間、お母さんの元気な声が飛んできました。

「おはようございます」

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ケースにはこれでもかというくらいの種類の総菜パンが並んでいます。パンだけじゃありません。コロッケやおにぎりなどもあります。うーん。どうしよう。

「どれにしましょう?」

「えーっと。んー。悩ませて下さい!」

「ははは。悩むって」

「だって、これだけあったら悩んじゃいますよ。じゃあ、カレーパンと」

「特製カレーパンね」

よく見たら、カレーパンだけで数種ありました。

「あとひとつどうしようかな。どれが人気ですか?」

「そうねぇ。卵と野菜系かしら」

「卵? たまごたまご……」

「これ」

「へぇ」

「ゆで卵を潰して、塩・コショウで味付けしただけのパン」

「ああ、シンプルでいいですね。じゃあタマゴパンと、そのふたつをお願いします」

「310円です」

「こちらはどれくらいになるんですか?」

お母さんが咳払いをひとつ。そこから活弁士のごとく話しだします。

「昭和17年から」

「うわ、すご。戦前、戦中ですね」

「当時は切符で買いに来てたのよ」

「切符? 配給ですか」

「そう。母がね、寝てるでしょう。けど、表でみんな並ぶのね。そうしたら寝てられないでしょう。だから早い時間からパン作って……」

碑文谷ベーカリーの開店時間は午前5時半頃。朝の早いパン屋は珍しくありませんが、この早さはもしかしたらその頃の名残なのかもしれません。

「ということは、こちらはお母様が始められたんですか?」

「そうそう」

朝6時過ぎでした。お客さんが次々とやって来ます。めっちゃ楽しいお母さんなので、もっともっと話をしたかったのですが、お邪魔になってはいけません。またの機会を楽しみにしますか。

「ありがとうございました」

「ありがとうございましたー」

公園で食べたいな。すぐ近くの清水池公園へ向かいます。公園にはご年配方がいっぱい。弁天様の前のベンチに座ります。

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うーん、朴訥とした顔つきが、この公園の雰囲気にもよく合ってるや。まずはタマゴパンから。

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手にすると大きさがより実感できます。カフッとした軽いパン生地。タマゴはマヨネーズ、塩、コショウで味付けされています。なんじゃこりゃ。シンプルではあるのですが、なぜかこれがうまい。タマゴ激ウマ。一気に食い切ります。

続いて特製カレーパン。

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見た目はカレーパンというよりも、超巨大メンチカツw

えええ。なんじゃこりゃ!? ひと口目で驚愕します。カレーパンでこの食感はこれまであったかなぁ。表面はザックザク、ガリッガリ。たとえるなら、ハードなシュークリームやメロンパンのよう。中の生地はフワ・モチ。ほんの少しゆで卵が混ざっているカレーは惣菜などで使われるカレーの典型でオーソドックス。

正直、味自体は普通っちゃあ普通。けど、皮、生地、カレーの3層が織りなす食感バリアントは、未知なるカレーパン体験を味わわせてくれます。そして、食感の面白さはおいしさにもつながります。こいつはすごい。おかしな言い方ですが、味は普通なのにうまいという。

面白いんですよ。一見、どこにでもありがちな見た目です(大きさは別としてw)。けど、食べたら「ん?」「なんじゃこりゃ?」となる。このパン屋だけが世間から隔離され、独自の進化を遂げているよう。「碑文谷ベーカリー」のパンには「昔ながらの」という安直な言葉では片付けられない何かがあります。

そもそもね、上の写真をもう一度よく見てみて下さいよ。こんなに種類を用意しますかね。なんなんだ。しかも、どれも巨大で激安で。

戦前、戦中、戦後、みんなお腹を空かせています。とにかく安く、いっぱい食べてもらいたい。いろいろ食べてほしい。そんな気持ちでお母様は朝早くから、いや、仕込みを考えれば深夜から、パンを作っていたんだろうなぁ。その気持ちは娘にも伝わり、当時の思いをそのままに、店を続けてらっしゃるのでしょう。

後ろでは70を優に超えているであろうご婦人二人が、楽しそうにおしゃべりしながら弁天様を掃除なさってます。ああ、なんて安らかな朝なんだ。

普通に見えてなんだか不思議なパン。ほんとにおいしかったな。そうだ、ついでだ。”アレ”もしっかり追っておくか。

碑文谷ベーカリー(碑文谷製パン)
東京都目黒区目黒本町4-12-12
03-3714-2711
食べログ

品川用水、羅漢寺川の川跡をさくっと巡ってみる

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不正確な部分もあると思います。特に清水池以北の流路。ご了承ください。

学芸大学界隈出身の方であればご存じでしょうが、最近越して来たという方はもしかしたらご存じないかもしれません。私もまーったく知りませんでした。学芸大学界隈はその昔、”川”だらけでした。

たとえば先の清水池公園。池には北からいくつもの川が流れ込み、池からは川が流れ、立会川へと注いでいました。碑文谷八幡あたりの緑道が立会川です。

川は時代とともに埋め立てられ、あるいはフタをされ、その姿を地上から消します。この状態を暗渠(あんきょ)と言います。暗渠は緑道になることが多いです。

具体的に見てみましょう。なんとなく川の形跡がうかがい知れる、学芸大学付近で有名な暗渠と言えば、「串カツ田中 学芸大店」前の緑道(品川用水跡)。あるいはこれ。

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バス通り、「レストラン インディゴ(RESTAURANT INDIGO)」の脇道。バス通り自体も品川用水だったわけですが、これを縦断するように暗渠が走っています。ここも以前は川で、ずっと南の清水池へと続いていました。次はこちら。

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目黒通り、目黒四中交差点から清水稲荷通りを少し入ったところにある清水稲荷神社です。背後の東急バス目黒営業所あたりを水源として、清水稲荷通りを横断、その後、南下して林試の森公園方面へと続きます。目黒川水系、羅漢寺川(らかんじがわ)です。

羅漢寺川は一本ではなく、いくつかの支流があり、それぞれに水源があります。こちらもその内のひとつ。

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はい。来ました。都道420号線(補助26号線)沿い、先の「碑文谷ベーカリー」のはす向かいにある羅漢寺川緑道の始点です。一番手前、銀色のポールが立っているところから先が緑道です。少し下ったあたりが水源だったと思われます。この緑道は林試の森公園、五百羅漢寺、目黒川へと向かいます。

何が面白いって、「碑文谷ベーカリー」のすぐ前には羅漢寺川水源があり、背後には品川用水が流れていたという。

品川用水は目黒郵便局前交差点あたりから南下してきて、L字にカクッと方向を変え、都道420号線をまたいで武蔵小山方面へと流れていきます。

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これは品川用水跡が都道420号線へと出てくる地点(カメラは北向き)。向うにファミリーマートが見えますね。このファミリーマートは先ほどの羅漢寺川緑道始点の写真に写っているファミマと同じです。ね? こんなに近くに川が2本流れていたんですよ。

で、都道420号線を渡った先がこちら。

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手前のブロック壁に立てかけられ、ずっと先にも据えられている青いA型バリケードは車両通行禁止の柵。これもまた”暗渠サイン”。私道だったり、あるいは騒音の問題で、こうした柵が設置されることもあるのですが、暗渠でも置かれていることがままあります。道路下に地下水脈があり、大型車が頻繁に通っていては地盤の沈下等を引き起こしかねない。それを防ぐため、車両の通行を制限・禁止しています。時間帯によって住民がみずから柵を設置・撤去しています。

ちなみに、奥の青いA型バリケードのところが「やきとり 㐂作/喜作(きさく)」。さらにそのまま進むと……。

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ここに出ます(カメラは北向き)。小山台公園。写真手前が南、武蔵小山方面で、写真奥は北。左斜めから品川用水が来ていました。

このあたりは道が妙にカーブしていますよね。この妙なカーブも暗渠サイン。円融寺周辺や「ハルピン」前も同様です。碑文谷池、清水池から立会川へとつながる川が流れていたので、あんなカーブを描いています。

で。

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小山台公園の前に小さな商店がありました。のちに調べてわかったのですが、南雲商店というらしいです。もはや営業しているのかどうかもわからないような小さな古い商店。その前を通りますと、店内におじいちゃん、おばあちゃんがいたので話を聞いてみました。

「すみません、つかぬことをおうかがいしますが」

「はい」

90度に腰が折れ曲がったおじいちゃんはどこかへ出かける準備をなさっていました。

「ずっと以前、このあたりに川が流れていましたよね」

「そう、裏ね」

裏とはつまり、先の写真の左斜め奥から、ということです。実は都道420号線のファミリーマートから斜めに入る道、つまり、この南雲商店の目の前の道も怪しいなと思ってたんです。川の形跡を感じます。でも、このおじいちゃんの言いっぷりからすると、どうもここは川ではなかったみたい。実はこれが知りたかったw ま、それはさて置き。

「あちらの方にも林試の森方面に続く川があったんですよねぇ」

「ええ」

「いつごろ埋められたんですか?」

埋められたというのは正確な表現ではないのですが、わかりやすいようにそう言いました。

「いつだったかなぁ。昭和にじゅう…」

正確な年が知りたかったわけではありません。おおよそいつ頃だったかを知りたかった。お出かけの準備も忙しそうですし、答えとしては十分です。

「昭和20年代くらいだったんですね。すみません、お忙しい中。ありがとうございます」

私は新参者ですから、この界隈の歴史には不案内です。なもんで、こういう歴史がわかるってのが面白いんですよねぇ。そして、歴史を知れば街を知れる。街がわかると、その街がもっと楽しくなる。暗渠巡りはその一環だから楽しいんだなw

とにもかくにも、これだけ水のあった学芸大学・目黒本町・碑文谷界隈。その真っ只中、羅漢寺川と品川用水が背中合わせになっていた、まさにその地に「碑文谷ベーカリー」があるってことです。いやー、「碑文谷ベーカリー」いい。次は何を食べてみようかな。

長ぇ記事だ。誰が読むんだw

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執筆者:後藤 ひろし(ひろぽん)
雑誌・書籍編集兼ライター、ウェブディレクター。主に学芸大学駅(学大)界隈で飲んでます。
https://twitter.com/gokky_510

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